Police Response for Terrorism Notice 

あいちトリエンナーレ津田大介芸術監督インタビュー

平和の少女像問題、そして「組織化したテロに屈した」という発言の真意語る

安全で円滑な管理運営をする現場監督として
自ら動かざるを得なかった

──「大至急撤去しろや、さもなくばガソリン携行缶を持って館にお邪魔するので」と書かれたファックスによる脅迫事件について教えてください。容疑者の堀田修司が逮捕されたのが8月7日ですが、被害が発表されてから被害届が受理されるまでタイムラグがあったそうですね。脅迫なのに、なぜ警察がすぐ受けつけなかったのでしょうか?

津田:これは全然報道されていないので最も誤解が大きいところですね。また、不自由展実行委とも大きく認識がずれているところです。8月22日に東京で開催された緊急シンポジウムで不自由展実行委の小倉利丸さんが「抗議電話は7月31日、8月1日からあった。我々は暴力の予告があれば警察に委ねるよう言っていた。ガソリンファックスは8月2日だが警察に届けたのは8月6日。メールについての被害届は8月14日。これはサボタージュだ」と発言され、会場からも大きなどよめきと疑問や運営側を責める声が上がったそうです。しかし、端的に言ってこれは事実誤認です。現場で何が起こっていたのかといえば、初日の8月1日から3日まで、落ち着いた展示空間とは異なり、事務局はずっとトラブル対応に追われていました。そんな中、あの脅迫ファックスが来たのが2日の早朝です。脅迫ファックスが届いたと現場が大騒ぎになり、すぐに事務局はすぐ警察を呼びました。通報を受けてやってきた所轄の警察署員がファックスを見て、ヘッダーのところにある番号が5ケタだったため、「これだと発信者はわからないね」と、そっけない対応をされたそうです。このことは後から聞いて判明したことなのですが、いずれにせよ現場に来た警察署員の対応で終わっていて、そもそも被害届を出すような状況ではなかったということです。2日夜に捜査の状況を知事とともに確認しているときに、知事から言われたのは「警察からはファックスが匿名化されていて送り先がわからないと聞いている」という旨の話を聞きました。自分の中では引っかかりがありましたが、そのときはまさに不自由展を中止するかどうかを判断する瀬戸際で現場も大混乱していたため、あとで自分で調べようと思いました。3日の17時に、大村知事が記者会見を行い、不自由展の中止を表明。その後僕が単独記者会見を行い、不自由展のメンバーが記者会見を行いました。後片付けなども含めてすべてが終わったのは深夜でした。

8月4日になり、まだ現場の混乱は続いていましたが、多少僕に余裕ができたので、今回の中止の背景にある脅迫事件を何とかしなければならないと思って、脅迫ファックスの原本を見せてもらいました。実際に見たら発信者番号のところに5ケタの番号が書いてあった。これを警察の捜査にも詳しい専門家に見せたところ、機種は恐らくゼロックスG4で、オフィスにある複合機から送っているのではないかという分析が返ってきました。

その情報をもとにうちの会社の社員が5ケタの番号を解析したところ、オフィスの複合機ではなく、コンビニの可能性があるということがわかりました。コンビニの複合機は主にゼロックスを導入しているセブンイレブンと、それ以外のコンビニで多く使われているシャープの2つがあり、さらに解析すると、ゼロックスではなくシャープのヘッダーで、5ケタの番号はコンビニの店番号じゃないかということまでわかった。つまり、犯人は匿名化を全然やっておらず、単にコンビニから送っただけで、その店番号をウェブサイトで検索してみると普通に店舗名が出てくるんです。そこで、愛知県内のコンビニの特定までできました。送信時間まではわかってますから、あとはコンビニの監視カメラをチェックすれば犯人がわかる。とにかく早く警察に動いてほしかったので、こちらで調べた状況をテキストにまとめて事務局経由で警察にあげてもらいました。そうしたらその翌日に警察から「被害届を出してくれ」という連絡がきて、ようやく出させてもらえて、その1日半後に容疑者が逮捕されたというのが経緯です。

──堀田修司は、別に本気でやるつもりはなかったと言っているそうですね。

津田:恐らく愉快犯でしょうね。しかし、だからといってトリエンナーレがさらされている脅威が除去されたという単純な話でもありません。これ以外にも多くの脅迫があるからです。一日中抗議電話や脅迫電話があるなかで、あのファックスが届いた。それは愉快犯であったとしても、職員の精神的な状況は察するにあまりある。

──そのほかメールでの脅迫も大量にきていると。

津田:大量の脅迫メールが届いたのは8月5日の朝からです。あいちトリエンナーレ事務局にも来ましたけれど、それだけではなく、教育委員会への小中学校の爆破予告や職員に対しての射殺予告など、愛知県の関連施設に大量に送られてきました。それが760通、何回かに分けて送られてきました。こちらも届いたその日に警察には相談していますが、被害届は出させてもらえませんでした。メールのヘッダーを見せてもらって分析したら、偽装された形跡はありませんでした。ある宗教団体のメールサーバーを使って送られてきていんたんです。一目で見ておかしいと思いました。

──僕へのDMでは、×××と言われていますよね。

津田:その宗教団体がまさかそんなことをするとは思えないし、文面を見てみると明らかにおかしい。いろいろ調べてカラクリがわかりました。この手法自体を話すと今後別の愉快犯に悪用されかねないので詳細は避けますが、一言でいってソーシャルハッキングみたいなものだと思いましたね。宗教団体のメールサーバーを使って脅迫メールを送ったらIP開示請求をその宗教団体にしなければならないわけで、警察も動きにくいでしょう。その宗教団体に依頼してIPアドレスを提出してもらうのも手間だし、そもそも適切にIPアドレスを管理しているかも、協力してくれるかどうかもわからない。そして、ここまで悪知恵が働いて身を隠そうとしているなら、IPアドレスがわかったとしても、その先も匿名化されているだろうなと思いました。いずれにせよ、この件もずっと警察には働きかけていたんですが、なかなか動いてくれなかったですね。

──大村知事からの働きかけはなかったのですか?

津田:もちろんお願いしました。大村知事からの働きかけもあって、少しずつ動き始めた感じです。同時に正攻法でいこうとも思って、僕らがその宗教団体に電話して、理由を説明してIPアドレスを出してもらえないかとお願いしました。非常にその宗教団体は協力的で、状況を理解して2日後にIPアドレスを出してくれました。事前に予想した通り、IPアドレスを調べてみるとTorという匿名通信の手法により匿名化されていました。セキュリティに詳しい専門家に見てもらいましたが、この出口ノードだけでは本人特定は難しいと言われました。8月14日にようやく被害届を受け取ってもらえて捜査に入ってくれたので提供されたIPアドレスを事務局経由で警察に送りました。それまでに9日間かかりました。不自由展実行委の言う、我々が警察に届けてなかった、サボタージュしていたというのは誤解ですし、間違っています。むしろ、この対応に全力を挙げていたことが不自由展やトリエンナーレに参加した作家とのコミュニケーション不足を招いて、いまのような事態に陥っているので、それを「サボタージュしていた」と言われるのは辛いですね……。そして、「警察に脅迫が届いたその日から何度も捜査してくれとお願いしている、このことをメディアも報じてほしい」と報道各社には何度も繰り返し囲み取材などで伝えているのですが、このことをまともに取材して報じてくれるメディアはありませんでした。だから今日僕はこのwebDICEのインタビューを受けているわけです。

特に最初の2週間は、トリエンナーレが崩壊しそうになっている中で、これらのことを同時に対応しなければいけなかった。東浩紀には「なんで脅迫犯の対応や分析を芸術監督自らやってるんだ。それは行政がやるべき仕事であって芸術監督の仕事じゃない」と批判されましたが、なかなか警察の捜査が進展しない状況で、まずこの対応をきちんとやらないとトリエンナーレが崩壊すると思いました。安全で円滑な管理運営をする現場監督は自分。だから動かざるを得なかったという認識です。

──協賛企業に来た資料では、職員が「自分たちは依頼に応じて会場を貸しているだけで、内容については関知していない」と答えたところ「わかった。それだったらここに組織的に抗議するのはやめてやるわ」と言われて、電話を切られた、と書かれていますね。そのように返事をすればいいのでは?

津田:会場を単に貸している人はその対応でいいでしょうが、事務局はそうできないですよね。電凸のマニュアルは広く共有されているようで、ツイッターをモニタリングしていると、このように抗議をしよう、電話をかけようという呼びかけが拡散していることを確認できました。行橋市の小坪慎也議員も、自分のブログで協賛企業などへの電凸を呼びかけるテンプレを公開しています。組織的にやっているところもあれば、報道を見て、展示の内容を知らないけれど憤って電話をかけてくる人もいるでしょうから、どこからどこまでが組織的な電凸でどこからどこまでが県民の怒りなのかは、グラデーションがある。ただ、結果的に起きているのは電話の攻撃で溢れてしまって協賛企業やすべての僕の関係しているところへの攻撃が破裂化していったという状況があるので、それをまず抑えないことには正常に運営できないと思いました。

先ほど、メディアが報じてくれないという話をしましたが、気にしてくれて動いてくれている記者もいます。彼らになぜこんなに警察の動きが遅いのか尋ねてみたら、ふたつの見方があると。ひとつは政治的な判断によってサボタージュされている可能性もあるけれどそれは薄いだろうと。地方の警察はそもそも動きが鈍いものだという意見。これが主流ですね。被害届を受け取らない理由は明快で、検挙率を下げたくないのだろうと。被害届を受け取って捜査をしたら検挙率の対象になるけれど、捜査しなければそもそも検挙率に影響しないので、犯人逮捕が難しそうなネット案件は避ける傾向にあると。ストーカー事件で被害届をなかなか受け取ってもらえないケースは山ほどありますが、そういう事情も一般の人はよく知らない。だから、警察が被害届を受け取ってくれないということがわからず、「捜査が進まないのは現場が警察に要請していない、サボタージュしているからだ」と思われてしまうわけですね。時間はかかりましたが、どちらの事件も被害届を受け取って捜査を始めてもらえた。ファックスの店舗特定から逮捕までは迅速でしたし、メールの捜査を始めてくれたことにも感謝しています。とにかくいまは、まだ逮捕されていない犯人が逮捕されることを期待するしかないという感じです。

──でもここまで世間の注目を集めている事件なのに受け付けないって、わからないです。

津田:うーん……。それは、ぼくも同じ気持ちですよ。ただ、愛知県警は会場警備という点では非常に協力的で、イベントなどでも私服警官を何人も出してくれていて、これはとても助かっています。警察内部にもいろいろ事情はあるでしょうし、今後はきちんと情報共有と連携を強めていきたいと思っています。

──「不本意ながら組織化したテロに屈した形だ」とおっしゃいましたね。

津田:だから逮捕されたから再開すればいい、という意見もありますが、それは匿名化されたメールについてご存知ないんですよね。脅迫は、まだ続いているんです。

──中止させたのだから、彼らからすれば成果を上げたかたちですよね。いまもメールは来ているのですか?

津田:断続的に来ています。

──メールの文面や、どこの学校に脅迫が来たかは発表できないのですか?

津田:発表はしています、でも報道のときは丸められてしまうんです。文面そのものを公表できないのは、そこに書かれている内容が人権侵害的だからです。メールを見て傷つく人もいるから、それは僕がやるべきではないと思います。警察や弁護士のアドバイスもあって、愉快犯にとっては発表されることで喜んでより過激化させてしまう危険もあるので、そのものを公開することはできない。

トリエンナーレ推進室であれば推進室の職員もいて、リアルで脅迫を受けているなかでそのメールのなかで殺害予告があって、それを公表したら、報道によってそれを知ってさらに心を病んでしまうという二次的な暴力の問題もある。浅井さんの公表したほうがいい、という意見もわかりますが、それはできないですね。とにかく警察に頑張ってもらいたいということを言うしかないです。

──webDICEでしゃべるより、公の場で記者会見をすれば赤を入れられないし、ニコ生やAbemaTVが入ってもいいし「こういう理由でメールを見せられない」というポリシーをきちんと伝えればいいと思う。津田さんが個々のメディアで発信するよりも、パブリック・セクターの芸術監督なんだから、津田芸術監督としてパブリック・セクター内で継続的に発信するのが必要だと思います。

パブリック・セクターの芸術監督としてしゃべるということは、言葉に制限がかかります。

──そんなことはないでしょう?

津田:個人としての立場で語ることはできないですよ。複数の検証過程が立ち上っていて、検証委員会が立ち上がっていて、ヒアリングも途中です。あとはアーティストとも非公式のクローズドな会話が続いています。

──アーティストについても考え方はバラバラなのは当たり前なので、もちろんヘイトの二次被害は考慮すべきだけれど、情報はオープンにしないと、フェイクニュースがどんどん広まってしまう。

津田:でも情報をオープンにして、状況が悪くなるならば、明らかにできないケースもあるのでは?

──「被害届を出しているけれど、受理してくれない」ということは事実だから、公の場で言えることでしょう。

津田:先ほども言いましたが。さまざまなメディアの取材に対して話しています。でも、記事には使われない。でも結局メディア的には耳目の集まる「表現の不自由展」の是非ばかり報じられてしまうんです。ただこれって、来年のオリンピックでも、会場を運営していくうえですごく大きな論点になる話ですよね。そこに光があたってほしい。

──本気で人身事故があったら大変なことだし、この電凸程度というと反発を買うかもしれないけれど、イベントを潰せるならば、オリンピックも潰すことはできるでしょう。だから愉快犯であろうと捕まえて、展示を再開すべきだと思います。

津田:だからこそ、とにかく逮捕してほしい。匿名化されていることで逮捕の難易度は上がりますが、不可能ではないはずです。実際に「漫画村」運営者も逮捕されているわけですから。それをやるためには警察庁がどれだけ本気出すかということでもあるでしょうね。一般論として、今回の件で、来年のオリンピックをどうするのか、という問題も提起されていますよね。電話やメールで公共イベントをいくらでも潰せてしまう脆弱性が明らかになっているわけですから。

──警察の捜査をどんなにやっても、会期中には捕まらないですか?

津田:捕まえてほしいですね。

http://www.webdice.jp/dice/detail/5849/